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THEATRE E9 KYOTO 第3期アソシエイトアーティスト発表

2021.10.06

アソシエイトアーティスト制度とは、劇場と稽古場施設を3年間、無償で提供することで、アーティストを支援すると共に、その作品上演や創作過程を通じて、作品のみならず劇場や地域、あるいは上演という営みそのものの魅力を伝えて欲しいという意図を持っています。通常は毎年1名の方にお願いしていますが、この度は、穴迫信一さん、福井裕孝さんを選出しました。
お二人の異なる取り組みは、劇場の新しい可能性を引き出していただけるだろうと思います。それぞれの魅力はまた、様々な形でお伝えできればと思います。ぜひご期待ください。

 

THEATRE E9 KYOTO芸術監督 あごうさとし


穴迫信一

【プロフィール】

穴迫信一(あなさこ・しんいち)

1990年生。2012年に福岡県北九州市でブルーエゴナクを旗揚げ。以降、全作品の作・演出を務める。地域を拠点に国内外に通用する新たな演劇の創造と上演を趣旨として活動。リリックを組み込んだ戯曲と、発語や構成に渡り音楽的要素を用いた演出手法を元に、〈個人のささやかさ〉に焦点を当てながら世界の在り方を見いだそうとする作風が特徴。これまでに市場や都市モノレールでのレパートリー作品を製作するなど、地域との共同製作も多数。2018年、ロームシアター京都×京都芸術センターU35創造支援プログラム“KIPPU”に選出され『sad』を上演。2020年、豊岡演劇祭2020フリンジプログラムでは豊岡竹野町に滞在し、現地の盆踊り振興会の伴奏のもと『ザンザカと遊行』を上演。2021年、TOKAS OPEN SITE 5では『Coincide 同時に起こること』をオーディオ作品として発表。

2021年『眺め』(撮影:岩原俊一、平田歩海)

【ごあいさつ】

私は福岡県北九州市を拠点にブルーエゴナクという団体で演劇をしています。2013年頃から年に一度くらいのペースで京都での活動の場をいただき、作品制作・上演を行ってきました。当初よりツアー地としての消費を避け、現地の俳優・スタッフの皆様との滞在制作を選択してきました。2017年頃、継続して創作したいと思えるメンバーに出会い、チームが形成され始めました。その頃から京都を第二の拠点にしたいと考えるようになりました。

近年の活動のキーとして、複数の地域にて滞在製作を行ってきました。それぞれで「演劇」の言葉の意味が違い、それはその土地にいる人々が言葉の意味を生成しているのだと実感しました。演劇はその場所に居る人たちがその場所で作るという性質上、地域によってクオリティや流行、興味、評価、生活との結びつき、などに大きな差があります。それらを踏まえて今、THEATRE E9 KYOTOのアソシエイト・アーティストとして京都(の東九条)という地域における演劇(の言葉の意味)の生成に携わりたいと考えました。私は眼前の絶望をどうにかすることを半ば諦めています。しかし、いつかの未来のために―それがたとえ自分の死後でも―自分がやれることだけは諦めないでいたいです。その時に私は〈諦めている眼前の絶望〉を描くことはせず、おそらく〈私の死後に訪れる希望〉を描きたいと考えました。演劇が時間を描く芸術である限り、私たちの未来を描くことが、今の時代に垣間見える一筋の希望であると考えています。2024年までの3年間、劇場がただそこにあるということがもたらす様々な文脈において、北九州と京都、複数の地域で継続的に活動してきた自身のこれまでを生かし、劇場と協同し、ひとつの基盤を作り出したいという希望を持っています。その希望は劇場の理念通り、私の死後やはるかどこかの未来に続くものにしたいです。

 


福井裕孝

 

(撮影:中谷利明)

【プロフィール】

福井裕孝 (ふくい・ひろたか)

1996年生まれ。京都府出身。人・もの・空間の関係を演劇的な技法を用いて再編し、異なる複数のスケールとパースペクティブからその場の状況を捉え直す。観客が自宅にある私物を舞台上に持ち込む『インテリア』(2020)や、劇場の箱馬を人の家に預けて生活を記録する『シアターマテリアル』(2020)など、人と空間のあいだに「もの」を介在させた演出が特徴的。近作に『インテリア』(2018,2020)、『マルチルーム』(2019)、『デスクトップ・シアター』(2021)など。公益財団法人クマ財団クリエイター奨学金第二期生。下北ウェーブ2019選出。ロームシアター京都×京都芸術センターU35創造支援プログラム“KIPPU”選出。

 

2021年『デスクトップ・シアター』(撮影:中谷利明)

【ごあいさつ】

福井裕孝と申します。このたびTHEATRE E9 KYOTOの第3期アソシエイトアーティストとして、来年度から2024年度までの三年間、継続的に関わらせていただくことになりました。この劇場は、多くの人の思いに支えられ、またあごうさんをはじめとする関係者の方々のご尽力によって、この京都の土地に誕生しました。これからアソシエイトアーティストという立場で劇場と関わっていくことが、私自身のほかに、たとえば劇場を利用する人々や劇場の位置する地域とどう関係してくるのか、(おこがましい気分だと思いつつも)いただいた機会に対して何か報いるようなことができるのか、この場でご挨拶させていただくに際してさまざまなことを考えました。わかりやすい目標や抱負のようなものを述べるのはなかなか難しいのですが、これから三年間、劇場と協同して行ういくつかの具体的な取り組みを通して、私と劇場と地域のそれぞれの接点を見つけていきたいと思います。

これまでTHEATRE E9 KYOTOをはじめ、いくつかの劇場で作品を上演してきました。 劇場とは、既存の演劇の制度が「かたち」化したものです。それゆえ劇場で上演するときは、そこを何もない空間ではなく、何かがある場所だと考えることから始めてきました。そこにある何かの存在を認めることは、私にとって何よりも重要な前提です。そこに何かがある(いる)という事実を最初にもってこなければ、私が普段演出としておこなっている一連の作業はほとんど意味を持ちえません。だから劇場においても、「黒」を背景にそこにない何かを立ち上げようとする想像力以上に、「黒」そのものに物理的な限界を見る平凡なまなざしと感覚を優先させてきました。現実を真摯に引き受けることで、そこに「かたち」としてあらわれているもの。その上に成り立つ身体や言葉や表現を信じています。

このたびのご縁に感謝いたします。
一生懸命やります。どうぞよろしくお願いします。