ARTS SEED KYOTO

検索

NEWS

【シンポジウムのご報告】『演出力』から考えるビジネスとまちづくり

2022.03.25

 

THEATRE E9 KYOTOでは“『演出力』から考えるビジネスとまちづくり”と題し、2021年12月18日にオンラインシンポジウムを開催いたしました。この度は、当日行われましたトークの内容を報告させていただきます。

 


SUMMARY

演劇を生業にする3人と、それとは一見接点のないビジネスを生業にする3人が、「『演出力』から考えるまちづくりとビジネス」をテーマにトーク。別々のものと思われる芸術とビジネス。その両者の共通点や、両者が一体となることで何が起こるのか。また、芸術もビジネスも一般の人々とも繋がりながら活動し続けるためには、何が必要であるのか。

 

登壇者

あごうさとし(THEATRE E9 KYOTO芸術監督、一般社団法人アーツシード京都 代表理事)

蔭山陽太(THEATRE E9 KYOTO支配人、一般社団法人アーツシード京都 理事)

高坂尚平(株式会社LaHimawari代表)

太田宏(俳優、劇団『青年団』所属)

堀池典代(心理カウンセラー「人生改善屋」)

能政夕介(フリーアナウンサー)

 

 

小劇場とコワーキングを内包する館

 

あごう 「『演出力』から考えるまちづくりとビジネス」というテーマで、今日はディスカッションします。THEATRE E9 KYOTOの私たちと、同じ建物の2階のコワーキングで働くみなさんに集まっていただきました。まず私たちの拠点のことから、お話させていただきます。

あごう 京都駅の東南部の鴨川沿いに、小劇場とコワーキングを併設した私たちの建物がございます。1階が小劇場THEATRE E9 KYOTO(シアターイーナイン京都)、2階がコワーキング Collabo Earth E9(コラボアースイーナイン)です。

 

蔭山 50年くらい前に工場として建てられたものを、株式会社八清の協力でリノベーションした建物です。

 

高坂 簡単に私たちの出会いから話していいですか?

私たち株式会社LaHimawariは、もともとはセミナー事業とかをしていて、仲間が増えて、できれば鴨川沿いで拠点を作りたいと当時考えていました。そこにTHEATRE E9 KYOTOの話が入ってきて、飛び込みであごうさんと蔭山さんのところに行きました。けれど、始めはもちろん疑われて。でも徐々に信頼関係を築いて、2019年、劇場と同時期にコワーキングCollabo Earth E9もオープンさせていただきました。

 

小劇場とコワーキングのコラボの始まり

 

あごう ビジネスセミナーの一つとして演劇を用いたプログラムをしました。お芝居を作り、有料でお客さまを集めて本番までやる、E9アートカレッジというものです。

 

蔭山 第0期は2020年2月に上演。2021年に第1期の上演もしましたが、このアートカレッジ、そもそもどのように始まったんでした?

 

高坂 はっきりはわからないけど、倉庫だった建物を今の形にリノベ―ションしていく過程で、あごうさんや蔭山さんが話されている内容が、ビジネスマンにとっても大事なことだと気付きました。

それに、ただ一緒に不動産を共有するだけじゃなくて、相乗効果のある関係でいたいなと思っていて。そこから何かが始まったという感覚です。

 

蔭山 始めは全然違うことをしていると思っていたけれど、何度も話すうちに、ビジネスもアートもつまりは自己表現であるということで繋がった。

そこから一緒に何をするかを具体的に考える過程で、「シンプルに演劇そのものをやる」という話をしたら、みんなが賛同してくれたんですね。

 

あごう セミナー仕様、ワークショップ仕様、初舞台仕様っていうのを基本的には考えない。

 

高坂 ないですね。だから、途中あごうさんにめっちゃ怒られたときがあった。

 

あごう 本番も近づいてきた大事な稽古の日に、5人くらいから「お腹痛い」とかいう連絡が来たんです。

 

蔭山 ただ、時間的にシビアな中で課題を乗り越える力はすごかった。

 

あごう 初回の稽古から、一味ちがいました。本来40分かかるプログラムが20分で終わって、それからも、作品をつくる過程で出てくる難しい課題をどんどん解決したし、ちょっとびっくりしました。

起業や経営をしている人は、普段から晒されているのだなと思いました。自分と向きあったり、その都度問題を乗り越えなければならないという状況に。

 

蔭山 作品作りの場で、自分がどうするべきかとか、人が今どうなっているかとかを肌で感じ取る能力が高かった。

 

演劇プログラムを体験した人の変化

 

蔭山 アートカレッジでは、それぞれが一人芝居をしました。必要があれば、他の人がストーリーを助ける役をしましたが、基本的には一人芝居。

 

あごう 最初の稽古で「皆さんの心の闇を教えてください。」と投げかけて、次の稽古でそれを話してもらいましたね。

この問によって皆さんが伏せていた何かを吐露する。そうやって、それぞれの方に自分と向き合っていただく仕組みにしました。

 

堀池 自分の話って理解しているようで全部は分かっていなくて、それを人にわかるように話すことって難しい。しかも、それを時間内で表現するのはさらに難しいけれど、いろんな要素がピタッとはまって上手く表現できたときは快感。

 

あごう 前の旦那さんとの修羅場をエスプレッソにした場面を演劇に。

 

高坂 ハサミで旦那さんの革ジャンを切り裂くシーンとかもあって、爆笑やった。

 

 

蔭山 あごうさんの演出が効いていました。限られた時間の中で「闇」を表現して、観客に本質的なものが伝わる演劇になっていた。演じた場面だけでなく、その背景までもが感じ取られる演劇。

しかも、あれだけの人数(13人)の別々の話を通して見たときに、一つの公演として印象に残った。これは本当に演劇人が入っていてできたことだと思います。

そして、あごうさんのすごいなと思うのが、演出家がやりたいことを役者にオーダーするのでなく、役者からどんどん引き出して演劇を構成していくところ。

 

堀池 引き出してくれるから、そこについて行けた。

 

蔭山 あごうさんが怒った話題があったけど、あれは本当に問題があったから怒ったわけで、それ以外で稽古中にあごうさんが灰皿なげたりとかは、一切なく。

 

堀池 ないない。

 

高坂 どちらかというと優しい人やな。

 

堀池 全部受け入れてくれてる。

 

あごう そうでしょ。めっちゃ楽しかったでしょ。

 

堀池、高坂 めちゃくちゃ楽しかった。

 

蔭山 「心の闇を教えてください」という問から、人生の課題のようなものがみんな引き出されていて、稽古を重ねてそれを表現していく過程で、課題を解決している人もいる感じがあった。

そうしたら、次はその課題をものすごく客観的に見て、まさに表現としてそれを伝えるというものになる。稽古を見ていると、その変化が本当に感じられました。

 

高坂 飯沼さんていう北海道の森でリトリート事業(植林して自ら育てた森を1日1組限定で貸し出して自然の中での癒しの時間を提供するサービス)をされている方がいて、お母さんに対してのいろんな感情を演技されていたのが、演技しすぎて、自分でももう心動かんくなるっていうことがありましたね。

 

堀池 あごうさんは稽古をするだけじゃなくて、演技することによって何が起こるかまで教えてくれたのが面白かった。

題材にする話は、最初は自分の中ですごく存在感があるものだったのが、演技をするうちに過去のもの、今の自分からは遠いものになっていって、その話題に対する自分の感情も変わっていく、ということを教えてくれて。そして、まさしくその変化が飯沼さんに現れているのが、すごく……。

 

高坂 周りで見てて面白かった(笑)。

 

あごう アートカレッジの公演を見てた能政さん、どうだった?

 

能政 第0期は見れなくて、第1期を見たんですけど、みんなイキイキしてた。

素の感じを生かしたまま演劇になっているのがとても興味深かった。それに、みんなの知らない部分を知ることで、第3者からの印象が変わるだけじゃなく、本人に変化がある感覚も見て取れた。

 

あごう 能政さんは『フリー/アナウンサー』という作品を僕と一緒に制作。あれは、一人で一時間だったし、能政さんはアートカレッジの皆さんより過酷だったかもしれない。

 

能政 過酷だったかもしれないんですけど、自分の性格上、みんなでやると、たぶんうまくできなかったと思う。

 

堀池 スポットライトを浴びない状況にしちゃうんよね、人がいっぱいいると。

だけど、アナウンサーって本来はスポットライトを浴びたい人やから。

 

能政 難しいっすよね。そういう意味じゃ。

一人で良かったけれど、台本から自分で考えて演じる過程で答えがない。何が正解かを考えて生きてきた中で、それはすごいキツかった。

 

高坂 稽古が始まって、しんどくても真剣に取り組む能政くんを見て、仕事仲間の高野と「今、能政くん絶対きついな。でも、あいつ逃げへん姿勢、やっぱ格好いいな。」っていう話をしていました。

アートカレッジも、いろんな人の違う側面が出てきて、見ていて面白いし、何より、その演者さんのことを好きになるんですよ。

 

能政 それはすごいわかる。

 

高坂 その感じを、みんなも能政くんに抱いてるっていう。

 

能政 なるほどね。

 

なぜ個人を起点に生みだした演劇が響くのか

 

能政 僕の『フリー/アナウンサー』という舞台、見に来てくれた先輩アナウンサーの方々から「よかった」とも「すごかった」とも言われました。

普段ルーティーンをもとに働いている人も実はチャレンジしたい欲求があって、それをきっと我慢してる。たぶんそういう個々の感情があったからこそ、僕のチャレンジを高く評価してくれたんだと思います。

それに、演劇とか何かチャレンジをすると、自分の違う一面が見えてくるとわかりました。

 

あごう アナウンサーの多くの方から、すごく良い評価をいただきました。

 

蔭山 舞台芸術というものを通して、日常や仕事の中で考えていることを超えた表現をする。その体験を通して見えてくることがある感じがしましたね。

まさに、それが「社会とアートが本来一緒にある、共生しているべき」ということも示していると思うし、それを意識的にやると面白くなると思う。

 

高坂 ちょっと話変わりますけど、幸せの価値観て確実に変わってきていて。物質的に豊かでも心の充足感ではないんだなということに社会が気付き始めている。

でも私たちはそこへの理解がまだ完全ではないと思うし、1階の劇場とともに進化していきたいって思う。

そこで、素人たちを演出してるあごうさんはどう思ってるんやろうっていうのは、実はめっちゃ気になってますね。

 

能政 プロの方と一般人じゃ、たぶん全然違うし、どんな風に映っているのか気になる。

 

あごう 基本はあんまり接し方変わってない。なんていうか、太田さんはプロだから、難しい要求はしますよ、表現上の。でもそれは芸術上のことで、ベースの関わり方はあんまり変えてるつもりがない。もうちょっと言うと、なるべく全て同じマインドでやりたい。

 

太田 皆さんも「舞台の上に意識を持って立った」という意味でプロだと思う。経済的な云々は別として。

僕らは、大学卒業からこの仕事を続けて専業になっちゃうと、自分探しを途中で始めたりとか紆余曲折あって。いい年齢になってから「自分は何ができて、どういうものを提示して作品に出演すれば、どんな風に外部と触れることができる」といったことがやっと分かるようになったんです。

けれども、聞いてると、アートカレッジの人たちってのは、やっぱ自分たちの中に何かしらがあるからこそ、それを利用してやろうって意識が明確にある。

共演したら面白いと思う。やってみると僕の中にも発見が生まれそう。

 

あごう 危ない!危ないですね、それは!

 

太田 それくらい違わないってことかなと思いました。さっきあごうさんが、同じように接するとおっしゃていたのも、そういうことかなと。

 

蔭山 ほんとそれはね、変わらない。

 

ワークとライフの関係性

 

蔭山 ちょっと話がズレるけども、最近聞いていて気になるのがワークライフバランス。

あれってワークとライフが対立的で、何か違うなぁと。「このふたつはバランス取るようなものじゃなくて、同じスタンスでやれればめっちゃハッピーじゃないの?」と思ったんです。それで考えてみたら、実際僕たちってワークライフバランスが無い。

ときどき言われると、ライフとバランス取らなあかんなって思うんですけど、実はそんなこと願ってない。ワークとライフが一緒にある。

だから分けて考えると話が進まないんだと思う。だって高坂さんも、ワークライフバランスって取れてないじゃないですか。

 

高坂 まったく、いや、終わってますよ。(笑)

 

蔭山 でも、それが、仕事にも私生活にも生きてるっていうか。

 

高坂 あー。

 

蔭山 ブラック企業の問題とかもあるし「ワークライフバランスを取りましょう」と掲げて、休暇とかのルールがあることは良いと思う。

けれど、自分の時間をどう使うかは自由なのに、外から言われて「休み取らないと」となるのは返ってストレスになってる。

実際、ワークライフバランス取れてなくてめっちゃ楽しそうな人、いっぱいいるし。そこにこそ、何かあるんじゃないかと思います。

ある会社の方は、「公私混合がいいんじゃないか」って。混同じゃなくってもう混合されてる状況が良いとおっしゃっていたけれど、ビジネスとアート、社会と芸術の関係も実はそうじゃないかと。

 

高坂 ワークとライフが分かれてると、場所によって自分を変えることになって、それってシンプルにストレス。

家でも職場でも、基本的には同じ自分でいてOKなはずだけど、なぜか同じ自分ではいれない人がたくさんいる。そんな中で、アートカレッジに触れた人って、ワークとライフでの自分が同じに近づいてるんですよ。

ちょっと言い方は悪いけれど、ビジネスって儲けることは簡単で、自分をだまして儲けようと思えばできてしまう。でも難しいのが、どんな場所でも同じ自分でありながら、その自分を社会に通用させていくこと。

 

株式会社La Himawariとしても、そうありたいと思いながらも、できないときもあり、チャレンジの最中です。

それに、最近バレる世の中になってきましたね。この人本当にビジネスやってるのか、金儲けだけでやりたいのかって。

 

堀池 わかるよね、姿勢でなんとなく。

 

蔭山 それはたぶん、その人自身が自分として表現されているのか、作られた表現しているのかで、わかるっていう。

 

高坂 そういう感覚やと思う。

俳優さんて、ワークライフバランスとかってあるんですか?

 

太田 いや、今聞きながら、バランスって無いなぁって。

 

あごう そんなこと考えてたりしました?ワークライフバランス考えようって。

 

太田 あのね、趣味持たないとなって思ったときはあった。芝居のことばっかり考えて、きゅ~ってなっちゃうから。で、釣りに行ったりしたんですけど、釣りしながら芝居のことが気になって考えちゃって。

だからバランスとかじゃなく、ワークとライフは全部一緒で、足りないのはお金だけという感じ。

 

アートとビジネス、アートと社会の関係性

 

あごう もう太田さんなんて、明らかにユーロの収入の方が大きいですよね。

 

太田 フランスで10年ちょいくらい、何年か置きですけどフランス人俳優と芝居をしてるんですが、向こうだと、演劇俳優っていうのは、国立劇場の養成所を出た人がなるんですね。コンセルバトワールっていう学校があって、そこの卒業生がメインになって、国立劇場のクリエイション(創作する仕事)に入る。

その人たちは、そこである程度芝居をすると、ちゃんと国からお金が出て生活できるようになるんですけど、僕がフランスに行ったら、そこと同じレベルのギャラを貰えるので、そうすると……すごく助かりました。

 

あごう そもそもの芸術の価値や捉え方も地域や国によって変わっちゃう。日本は単純にまだ評価が低い。

 

蔭山 ワークライフバランスの話に重ねると、これはビジネスとアートのバランス。そのバランスが極端に日本は悪い。

アートとビジネスが一体になるには、お金だけをくっつけるのじゃうまくいなかい。社会全体の問題だから。でも、アートとビジネスが一緒になったら、きっともっと楽しくなるし、可能性も広がる。そういう意味で、ワークとライフの関係性と、ビジネスとアートの関係性は似ているかもしれない。

 

太田 話を聞いていると、ビジネスの人と関わって、違う視点で見られるのって面白そう。別のところでの出会いが生まれて、それで演劇に興味持って「見ました!」って声が出てくるとか、楽しそうだなぁと思います。

 

あごう アートの状況を活用してもらえたら嬉しいですね。単純に楽しんでもらえたり、究極的には経済的価値をもつ評価が付く方向にしたい。

私、海外絡みの公演とか演出とかさせてもらったら、今乗ってる小さい車とか買えちゃうけど、同じようなことを日本でやってもそうはならない。

 

太田 海外に行ったからってどんどんウナギ上りなんじゃなくて、下が高い。卒業したての若い子たちも、ある程度のギャラを貰える。

 

蔭山 つまり、アーティストが、アーティストとしての創造価値を作ることに集中できるギャラとしてのお金っていうのがある。

 

高坂 どこからそのお金は入ってきてるんですか?

 

蔭山 これは見方はいろいろあるんだけど、基本的にヨーロッパっていうのは、国が税金を使う、で、芸術に税金を使うことに対して、国民がOKをしてる。それが歴史的に積み重ねられてきているんです。

隣国と陸続きの環境のところは、自国を維持するために芸術が大事にされてきた傾向もある。その点日本は、外の文化がすぐには入ってこない。

アメリカなんかも、どちらかというと、民間のお金が入りやすいように制度として整っている。寄付をすれば企業としてもそれだけプラスになるような制度とか。できるだけ国の税金を使わなくていいようになっている。

 

国によってお金の流れはそれぞれだけど、これをどう意識して、どんな視点でその国の文化・芸術を育てていくかが大事だと思うんです。日本は長い間そこが中途半端だったけれど、未来に向けた共生・共存のため、制度もマインドも作っていきたいと、僕らも思っている。そんな中、このトークセッションみたいな取り組みは大事。

 

あごう 野望としては。全ビジネスパーソンを芸術家にしたい(笑)。そうなると、垣根がなくなるし、「アートに親しみを持ってほしい」とかって言う必要がなくなる。

 

アートもビジネスもライフも一体になり、まちへ

 

蔭山 関わるまでは、「演出家」「俳優」って別の世界の人ってなってる。けれど同じ社会に生きてる人だということが、一緒に取り組みをしてわかって近づいた。そこに芸術の力があるし、これが広まれば本当に良い世界が作れるんだろうなって。

今のCollabo Earth E9とTHEATRE E9 KYOTOって一つの建物にあるけれど、これってありそうでないんですよ。しかも、それが一緒に活動したりしてるって、もしかしたらあそこしか無いかもしれない。

 

あごう 能政くんの舞台『フリー/アナウンサー』を絶賛してくれたある批評家がいて、「この館そのものがものすごい可能性に満ち溢れてると感じました」ともコメントをくれました。

しかも、東九条の町はちょっと大げさに言うと、歴史的過渡期にありますよね。

今、京都駅東南部エリア活性化方針で「若者と芸術」をキーワードに、道路がキレイになったり、京都市立芸術大学の新しい建物が施工されたり、町の様子が変わってきている。

 

能政 本当に町自体に可能性を感じるし、今回アートに関わって、アートカレッジとかに「自分も出たい」と思う人が増えていくと良いなとも思います。

Collabo Earth E9にビジネスマンが多数いるってことは、そこから何かを作っていける可能性はきっと大いにありますから。

 

高坂 少しずつ浸透はしてるなと思う。小さい話だけど、昨日、1階が演劇ですごい音デカくて2階はすごい振動がきていたのに、何もクレームが来なかった。コワーキングスペース、もうそれが日常になって「あ、今日も下で演劇してはんねんな。」って。

全員が楽しそうに仕事してるし、むしろ振動を感じながら、内心みんな1階の人たちを応援しているような雰囲気になってたんですよね。

 

蔭山 それ、すごい大事なことやなぁ。

小劇場が無くなっていった理由って、使われなくなったからじゃなくて、オーナーの高齢化とか建物の老朽化。

劇場自体はたくさん利用されていた大事なところなのに、近所からは常にクレームだったの。理解が無いと、自分と関係ない何かうるさいもの、騒音になる。でも、そこでやられていることを知っていれば、「ああ、がんばってるな」っていう風になる。

 

太田 周りからきつく当たられてる劇場に行く時は、僕も建物に入る時に縮こまっちゃう感じ。で、中では思いっきり芝居するから、より一層社会との孤立感みたいなものがあるんですよね。

「THEATRE E9 KYOTOの空間にある気持ちの良さ、風通しの良さは何だろう」と思ったんですけど、2階の人がそういう風に思っているっていうことを聞くことができると、より風通しの良さを感じる。

たぶん、劇場空間に入る前から芝居に入れるので、それで気持ちよくなってきてるんだろうなって。

 

蔭山 もう一つ「まちづくり」っていうのを実は考えています。

THEATRE E9 KYOTOをやっている僕らは、さっき言ったような周囲に理解されないまま劇場が無くなっていくプロセスを知っていたから、周りの理解を得る事も重視している。

それで、100年続く劇場にするために、まちとの関係とかを劇場を作る前に2年くらいかけて考えてきた。

当時は、劇場とか芸術のことを「わかってほしい」というアピールをしていたんですけれども、それは難しんですよね。理解を求めることは間違ってはいないけれど、急に理解されるものではない。

 

でも、わかってもらうために地域の人たちとの会話した結果、まちの人とか、土地の歴史を知っていったんですね。そこでいわば「過去の時間軸を共有していく」っていうことが起こって、その先の僕たちの活動に対しても「やってみれば。ようわからんけど。」という風に受け入れてくれるところに繋がっていく。

そうやって進んでいくと、「劇場がある町」にしたいという視点だったのが、「劇場もある町」が良いという風に変わった。劇場もある、コワーキングも、公園もある、住むとこもある。それがたくさんあった方がまち自体がものすごい豊かな町になるなぁと。

 

そして、いろんなものが共存するには、「時間軸を共有する」っていうのが条件じゃないかと思う。

まちづくりを考えた提案も生まれていて、自分の近くしか見れていなかったのが、周りも含めて、一緒に世界をつくっていく感じ。

アートカレッジという企画が自然に生まれたみたいに、アートとビジネスとか、分かれているものが一体になっていくと、すごく可能性が増していく。

しかも、THEATRE E9 KYOTOのオープンは2019年6月末ですよ。

 

あごう そうですね。

 

蔭山 わずか2年半ですね。そこから考えたら。その間にこんなに広がっているっていうのは、これからが面白いし、ある意味末恐ろしい。

 

あごう そういえば、アートカレッジで新しい取り組みをしようとしてましてね。これまで、舞台に出た人限定ですけど、演出コースを作ろうと思います。第2期から。稽古に一緒に出てもらって、演出のことを学ぶ。どうですか? 演出家コースの受講、高坂尚平さん。

 

高坂 それはどうしてもやりたい。どうしても学びたい。「あごうさん思考回路どうなってんの?」って思う瞬間、第0期でいっぱいあったじゃないっすか。

 

堀池 あった、あった。

 

高坂 意外な動きをさせる演出があって、でもやってみたら、本当に雰囲気が変わったのを見たから気になる。それに演出力って、セミナーづくりとかビジネスにも直結するんでね。

 

 

まとめ

 

コワーキングと小劇場が共存する館から、ビジネスパーソンが実体験を演じる舞台が生まれ、観客や批評家から好評を得た。それだけでなく、出演者には、仕事でも私生活でも以前より自然体で過ごせるようになるといった変化があった。

日本ではアートの評価がまだ低いが、日常で誰もが自己表現をしている。だから、アートを活用して表現することと深く向き合ったときに、私生活やビジネスにおいての発見が生まれることも多い。

また、THEATRE E9 KYOTOはただ劇場を運営するだけでなく、まちの人との対話もすることで地域に認められつつある。これからも、新しい人や施設がまちに入ってくるとき、お互いの時間軸を共有するような対話をして、共存すれば、まちはもっと豊かになる。

アート、ビジネス、私生活などを分けて考えることが多いが、それらが一体になったときに面白く楽しいことが起こるのかもしれない。

執筆者|山西 佐和子